会社には、法律上、従業員などからの相談に対応するための体制を整えることが求められているものがあります。
たとえば、職場におけるハラスメントについては、相談や苦情に対応するための体制を整備することが事業主の義務となっています。
会社としては、「相談窓口を設けています」と案内していても、
従業員からすると、
「誰に相談したらいいのかわからない」
「相談したら周囲に知られてしまいそう」
「相談しても結局何も変わらないのではないか」
と感じているかもしれません。
相談窓口は、設置しているだけでは十分に機能しません。
大切なのは、従業員が「ここなら相談できる」と思えること、そして相談を受けた後に会社として適切に対応できる状態を整えておくことです。
この記事では、相談窓口を設置することだけでなく、「従業員が実際に相談できる職場」という視点から、会社が確認しておきたいことを考えます。
会社には、法律上、相談に対応するための体制が求められている
まず、会社には法律上、一定の相談体制を整えることが求められています。
代表的なものとして、職場におけるセクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、妊娠・出産や育児・介護休業等に関するハラスメントについては、相談や苦情に適切に対応するための体制を整備することが事業主の義務となっています。
また、パート・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する相談体制を整えることも求められています。
育児・介護についても、制度を利用しやすい雇用環境を整備するため、介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備は、事業主が講じる措置の一つとなっています。
2026年10月からは、カスタマーハラスメントや求職者等に対するセクシュアルハラスメントについても、事業主に防止措置を講じることが義務付けられます。
このように、相談体制に関する法律上のルールは、相談の対象や制度によって異なります。
そのため、会社としては「相談窓口を作ったか」だけを見るのではなく、自社に必要な相談体制が整っているか、そして実際に機能しているかを確認することが大切です。
「相談窓口がある」と「相談できる」は違う
会社から見れば、相談窓口を設置している。
ところが、従業員からすると、そこに相談することが難しい。
こうしたことは起こり得ます。
誰に相談すればいいのかわからない
相談窓口が規程に書かれていても、具体的に誰に相談すればよいのか、どのような方法で相談すればよいのかが分からなければ、相談にはつながりません。
「相談窓口があります」と知らせるだけでなく、
- どんなことを相談できるのか
- 誰に相談できるのか
- どのような方法で相談できるのか
まで分かるようにしておくことが大切です。
相談したことを周囲に知られそう
相談する側にとっては、
「相談したことが上司に知られないか」
「同僚に知られないか」
「相談したことで不利益を受けないか」
という不安があります。
相談窓口によって適用される法律や制度は異なりますが、ハラスメントに関する相談などでは、相談者や関係者のプライバシーを保護することや、相談したことなどを理由として不利益な取扱いを行わないことが事業主に求められています。
そのため、相談窓口の案内だけでなく、相談された情報をどのように取り扱うのかについても、従業員に分かるようにしておくことが重要です。
相談相手が直属の上司
直属の上司について悩んでいるのに、その上司が相談窓口になっている。
これでは、「相談したくても相談できない」ということも考えられます。
会社の規模によっては、社内に複数の相談先を設けることが難しい場合もあります。
そのような場合には、誰に相談できるのかを明確にしたり、必要に応じて社外の相談窓口を活用したりする方法もあります。
以前相談したけれど、何も変わらなかった
一度相談しても、会社から十分な対応がなかったと感じれば、「また相談しても仕方がない」と思ってしまうかもしれません。
このように考えると、相談窓口を「設置すること」と、従業員が「相談できること」は別の問題です。
「相談がない=問題がない」とは限らない
会社としては、「従業員から相談がないので、特に問題は起きていない」と考えることがあるかもしれません。
しかし、相談がないことと、問題がないことは同じではありません。
たとえば、
「こんなことを相談していいのだろうか」
「相談しても会社は変わらないだろう」
「相談したことが知られたら、仕事がしづらくなる」
そんな気持ちから、相談することを諦めている可能性もあります。
従業員が抱えている疑問や不満が社内で表に出てこなければ、会社も問題を把握することができません。
そして、問題を把握できないまま時間が経過すれば、当初は小さかった問題が大きくなってしまうこともあります。
だからこそ、会社が確認したいのは、「相談が来ているか」だけではなく、「何かあったときに相談できる状態になっているか」ということです。
社内で相談できなかった悩みは、外部に相談されることもある
社内に相談できる場所がなければ、従業員は会社の外に相談することもあります。
たとえば、相談内容に応じて、
- 労働基準監督署
- 都道府県労働局の総合労働相談コーナー
- 都道府県や自治体などが設けている労働相談窓口
- 労働組合
- その他の専門機関
などがあります。
もちろん、会社の外に相談すること自体が悪いわけではありません。
従業員が自分の抱えている問題について外部に相談することは、当然あり得ることです。
会社として考えたいのは、「外部に相談されないようにする」ことではなく、「社内で早い段階に声を拾い、会社として対応できる状態をつくる」ことではないでしょうか。
そのためには、相談窓口を設置するだけでなく、日頃から従業員が疑問や不安を伝えられる環境を作っておくことも大切です。
「相談先があること」と「相談したときに対応してもらえること」は同じではない
私は以前、企業別労働組合の上部団体で勤務していました。
その中で、所属している労働組合に相談したものの、十分に対応してもらえなかったとして、上部団体に相談してくる方がいました。
そのような場合には、担当していた労働組合の役員と話し、相談内容を踏まえて、どのように対応するかを一緒に検討していました。
この経験を通じて感じたのは、相談先があることだけではなく、「相談したら話を受け止めてもらえる」と感じられることも大切だということです。
会社でも同じことが言えるのではないでしょうか。
相談窓口を設けることは大切です。
しかし、それだけで従業員が安心して相談できるとは限りません。
相談を受けたときにどう対応するのか。
必要に応じて誰が事実関係を確認し、誰が判断するのか。
相談された問題を会社としてどのように改善につなげるのか。
こうしたことまで考えて、初めて相談窓口が「機能する」のではないでしょうか。
相談窓口を機能させるために会社が確認したい5つのこと
では、相談窓口を単に「設置しただけ」にしないためには、何を確認すればよいのでしょうか。
① 従業員は「誰に・どうやって相談するか」を知っているか
相談窓口の担当者や連絡方法が明確になっているでしょうか。
就業規則や社内イントラネットなどに記載されていても、従業員がその情報を知らなければ、相談にはつながりません。
「相談窓口があります」と知らせるだけでなく、
どんなことを相談できるのか、誰に、どのように相談できるのか
まで分かるようにしておくことが大切です。
また、会社の規模や体制によっては、社内に専任の相談担当者を置くことが難しい場合もあります。
その場合には、担当者を明確にしたり、必要に応じて外部の相談窓口を活用したりするなど、自社の状況に合った方法を考えることが重要です。
② 相談したことを知られる不安はないか
相談する側にとっては、
「相談したことが上司に知られないか」
「同僚に知られないか」
「相談したことで不利益を受けないか」
という不安があります。
相談者や関係者のプライバシーをどのように守るのか。
相談したことを理由とする不利益な取扱いをしないことを、どのように伝えるのか。
こうした点も、あらかじめ整理しておくことが大切です。
③ 相談された後の対応が決まっているか
必要に応じて事実関係を確認し、関係者から話を聞き、会社として必要な対応を検討する。
そのような流れが社内で整理されているでしょうか。
特に、相談内容によっては、相談を受けた担当者だけで判断できないこともあります。
「誰に報告するのか」
「誰が判断するのか」
「相談者にはどのように伝えるのか」
など、相談を受けた後の流れまで考えておくことが大切です。
④ 「こんなことを相談していいの?」と思わせていないか
従業員が相談するときには、「これはハラスメントに該当するのかな?」と判断できないこともあります。
しかし、相談する段階で法律上の結論まで出す必要はありません。
「これは相談していいのだろうか」と迷った段階で相談できることが、早期の把握や対応につながる場合もあります。
会社としては、相談のハードルを必要以上に高くしないことも大切です。
⑤ 相談窓口以外にも声を上げられる場所があるか
相談窓口だけが従業員の声を拾う場所ではありません。
日常的な上司とのコミュニケーションや、定期的な面談、管理職への相談など、普段から小さな疑問や不満を伝えられる環境があるかも重要です。
相談窓口は、問題が大きくなったときだけに使うものではありません。
「ちょっと気になることがある」という段階で相談できる環境があれば、問題が大きくなる前に会社が気づき、対応できる可能性があります。
相談窓口だけでなく、会社のルールや運用も確認する
相談窓口を整備するとき、窓口だけを切り離して考えるのではなく、会社のルールや日々の労務管理も一緒に確認してみてはいかがでしょうか。
たとえば、
「相談された場合、会社としてどのように対応するのか」
「誰が判断するのか」
「就業規則にはどこまで書かれているのか」
「実際の職場で、そのルールどおりに運用されているのか」などです。
就業規則には相談窓口が記載されているのに、従業員が誰に相談すればよいのか分からない。
相談した場合の対応についてルールはあるものの、実際には担当者によって対応が違う。
このような状態では、せっかく整えたルールが十分に機能しません。
相談窓口を整えることも、就業規則を整えることも、目的は単に法律違反を避けることだけではありません。会社と従業員の間に生じる疑問や不安をできるだけ早く把握し、必要な対応につなげる。
そのための職場の土台を整えることにもつながります。
「相談されない会社」ではなく、「相談できる会社」を目指す
会社としては、
「問題が起きない会社にしたい」
「従業員から不満を言われない会社にしたい」
と思うかもしれません。
しかし、どれだけ注意していても、従業員が疑問や不満を感じることを完全になくすことはなかなか難しいです。
大切なのは、
不満や疑問が生まれたときに、それを表に出せる環境があるか。
そして、
声が上がったときに、会社がそれを受け止めて対応できるか。
ということではないでしょうか。
相談窓口は、そのための一つの仕組みです。
「相談がないから大丈夫」ではなく、「何かあったときに、相談してもらえる状態になっているか」を一度確認してみてはいかがでしょうか。
相談窓口が機能しているかを考えることは、単にハラスメント対策のためだけではありません。
会社と従業員の間にある小さな疑問や不安を早い段階で把握し、必要な対応につなげること。
その積み重ねが、会社への不信感を生まない職場の土台づくりにもつながっていくのではないでしょうか。
まとめ
法律上、会社には、制度や相談内容に応じて、さまざまな相談体制の整備が求められています。
しかし、相談窓口は設置して終わりではありません。
従業員から見て、
- 誰に相談すればよいのか分かる
- どのように相談すればよいのか分かる
- 安心して相談できる
- 相談した後の対応が整理されている
- 小さな疑問や不安でも相談できる
という状態になっていることが重要です。
「相談がないから問題がない」とは限りません。
だからこそ、会社としては「外部に相談されないようにする」という発想ではなく、社内で早い段階に従業員の声を拾い、必要な対応につなげられる職場をつくることが大切なのではないでしょうか。
相談窓口、就業規則、日々の労務管理、これらを別々のものとして考えるのではなく、会社と従業員が安心して働くための一つの仕組みとして見直してみることをおすすめします。
就業規則、日々の労務管理の見直しは当事務所へ
「相談窓口を設けているけれど、実際に機能しているのか分からない」
「就業規則には書いてあるけれど、日々の運用と合っているのか不安」
「従業員を大切にしたいと思っているけれど、労務管理を自分の経験や感覚だけで行うことに不安がある」
このような場合には、相談窓口だけでなく、就業規則や日々の労務管理も含めて、一度整理してみることが大切です。
アンタングル社会保険労務士事務所では、就業規則の作成・改定、運用支援、労務相談を通じて、会社の考え方が社内のルールや日々の運用に反映される職場づくりをサポートしています。
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