従業員代表から「従業員の声」を聞けていますか?会社と従業員の対話を生む仕組みづくり

目次

「従業員代表=従業員全体の意見を集める人」とは限らない

従業員代表は、労使協定の締結や就業規則の変更に関する意見聴取など、労務管理のさまざまな場面で登場します。
そのため、会社では「従業員を代表する人」として認識されています。
しかし、実際の職場では、従業員代表が会社から意見を求められたときに、「私はこう思います」と、自分自身の考えを伝えることも少なくないのではないでしょうか。
もちろん、それ自体が問題というわけではありません。

ただ、本来「従業員を代表する」というのであれば、その意見が本人個人の考えなのか、それとも職場の従業員から意見を聞いたうえでのものなのかは、分けて考える必要があります。

そして、もう一つ考えておきたいのが、会社側も、従業員代表に「従業員全体の声を集めてきてほしい」とまでは求めていないケースが多いのではないかということです。

会社としては、
「労使協定を締結するために従業員代表を選ぶ」
「就業規則を変更するので、従業員代表から意見をもらう」
というように、法律上必要な場面で対応してもらうことを主な役割として考えている。

そうであれば、従業員代表自身も「自分が従業員全体の意見を集めなければならない」とは考えないかもしれません。

つまり、
従業員代表はいるけれど、従業員の声を集める仕組みはない。
会社も従業員代表に「代表としての意見」を求めているわけではない。

という状態が生まれることがあります。

この状態では、形式上は「従業員代表」が存在していても、会社と従業員との間にある意見や認識の違いを把握することは難しくなります。

例えば、会社が従業員代表に、「今回の制度変更についてどう思いますか?」と尋ねたとします。
従業員代表が自分の考えを答えることはできます。

しかし、その答えが、
「職場の従業員からも同じような意見が出ています」
というものなのか、
「私は個人的にはこう思います」
というものなのかによって、その意味は大きく違います。

会社が本当に知りたいのが「従業員の声」なのであれば、代表者個人の意見を聞くだけではなく、その意見がどのように集められたものなのかまで考える必要があります。

労働組合には「職場の声を集める仕組み」がある

ここで参考になるのが、労働組合の仕組みです。
労働組合では、会社と交渉したり意見交換したりするとき、組合員の声を集め、それを組織として伝えるための仕組みを持っていることが多いです。

例えば、

  • 各職場の職場委員が職場の意見を集める
  • 組合員アンケートを実施する
  • 職場ごとに意見交換を行う
  • 組合員から寄せられた意見を執行部で整理する

といった方法です。

そのため、組合の執行部が会社のトップと対話するときも、
「私はこう思います」
という個人の意見だけではなく、
「職場からはこういう意見が出ています」
「この点について組合員から複数の声が寄せられています」
という形で話すことができます。

もちろん、労働組合の仕組みをそのまま会社に導入する必要はありません。
ここで参考にしたいのは組織の形そのものではなく、
「代表者が従業員の声を集める仕組みを持っている」という点です。

会社が制度の見直しなどを検討する際、対話形式で従業員の声を集めたいと考えたとき、労働組合がない会社でもこの考え方を取り入れることはできます。

方法① 部署ごとに代表者を置き、意見を集める

一つ目の方法は、労働組合の職場委員に近い仕組みをつくることです。

例えば、部署ごとに従業員の代表者を決めます。
そして、定期的に職場の意見を集め、その代表者が会社との対話に参加します。

イメージとしては、

各部署
↓
職場の意見を集める
↓
代表者同士で意見を整理する
↓
会社のトップと対話する

という流れです。

この方法のメリットは、代表者一人に負担が集中しないことです。
また、部署ごとに意見を集めることで、普段は経営者に届きにくい現場の声も拾いやすくなります。

例えば、

「営業部ではこういう問題がある」
「製造部ではこの制度について意見が多い」
「若手社員からこういう声が出ている」

といった形で、具体的な話を会社に伝えられるようになります。

ただし、ここで重要なのは、代表者を置くだけで終わらせないことです。
代表者がどのように職場の意見を集めるのか。
そこまで決めておく必要があります。

方法② テーマごとに参加者を集める

もう一つの方法は、テーマごとに参加する従業員を変える方法です。

例えば、

育児・介護について考える
→育児や介護をしている従業員から意見を聞く。

若手社員の意見を聞く
→若手社員を中心に対話の場をつくる。

職場環境について考える
→各部署から参加者を募る。

特定の制度を検討する
→関係する従業員によるワーキンググループをつくる。

といった方法です。

この場合、従業員代表も参加者の一人として加わることが考えられます。

この方法のメリットは、そのテーマについて実際に経験している人の声を聞けることです。

すべてのテーマについて同じ従業員代表が答えるよりも、テーマに応じて参加者を変えたほうが、具体的な意見が出てくる場合もあります。

方法③ トップと従業員の対話なら、懇親会やランチ会という方法もある

実際に、経営者が従業員の声を聞くために、懇親会やランチ会などの機会を設けている会社もあります。
こうした場では、普段はなかなか経営者に直接話せないことが出てくる可能性があります。
ただし、「対話の機会をつくること」と「従業員の声を組織として集約すること」は、別の問題です。

例えば、社長と10人の従業員がランチをしたとしても、その10人の意見が会社全体の意見とは限りません。
そのため、

  • 開催する目的は何なのか
  • どのように参加者を選ぶのか
  • 話し合った内容をどう共有するのか
  • その後、会社がどのように対応するのか

まで考えておくことが大切です。

大切なのは「何のために対話するのか」

従業員代表と会社との対話について相談される際、「他社ではどんなことをしていますか?」と聞かれることがあります。

もちろん、他社の事例は参考になります。
しかし、それだけでは自社に合った仕組みになるとは限りません。

例えば、「経営者が従業員の率直な意見を知りたい」のであれば、少人数の対話会が向いているかもしれません。
「各部署の課題を把握したいのであれば、部署ごとの代表者を置く方法が考えられます。
「育児・介護との両立について検討したい」のであれば、実際に育児や介護をしている従業員の声を聞くことが重要です。
「新しい制度について意見を聞きたい」のであれば、アンケートを活用する方法もあります。

つまり、目的によって、必要な「対話の形」は変わります。

私は、次の順番で考えることが重要だと考えています。

①何のために対話するのか
↓
②どんなテーマについて意見を聞きたいのか
↓
③誰の声を聞く必要があるのか
↓
④どのように意見を集めるのか
↓
⑤誰が会社と対話するのか
↓
⑥対話した内容をどう活かすのか

この順番で考えると、「とりあえず従業員代表と社長が話す」という形だけの取り組みになりにくくなります。

従業員の声を聞くことは、会社への不信感を防ぐことにもつながる

会社が従業員の声を聞く仕組みをつくることには、もう一つ重要な意味があります。
会社の制度やルールを変更するとき、経営者からすると、「会社にとって必要なことだから行っている」ということがあります。
しかし、従業員には、その背景が十分に伝わっていないことがあります。

すると、

「なぜ、この変更が必要なのか分からない」
「自分たちの意見は聞いてもらえない」
「会社は従業員のことを考えていないのではないか」

と感じることがあります。

会社としては、決して従業員を軽視しているわけではない。
それでも、説明や対話が十分でなければ、会社と従業員の間に認識のズレが生まれることがあります。

こうしたズレは、最初は小さなものかもしれません。
しかし、説明されない、聞いてもらえない、なぜそうなったのか分からない、といった経験が重なることで、会社に対する不信感につながることがあります。

だからこそ、従業員の声を聞く仕組みは、単なる「労使コミュニケーションの施策」ではなく、会社と従業員の関係を支える労務管理の土台として考えることができます。

「代表者を置く」から「声が届く仕組みをつくる」へ

従業員代表を選んでいるからといって、それだけで従業員の声が会社に届くとは限りません。

部署ごとに代表者を置く。
テーマごとに参加者を集める。
アンケートや意見交換会を活用する。
経営者とのランチ会を行う。

方法はいろいろあります。
重要なのは、会社の規模や組織の状況に合った方法を選び、無理なく継続できる仕組みにすることです。

そして、従業員の声が会社に届き、会社の考えも従業員に伝わる。
その双方向の労使コミュニケーションがあってこそ、会社と従業員がお互いを理解することにつながります。

労使コミュニケーションのご相談は当事務所へ

アンタングル社会保険労務士事務所では、会社と従業員双方の立場を踏まえた職場のルールづくりや労使コミュニケーションについてもご相談をお受けしています。
「従業員の声を聞きたいけれど、どのような仕組みにすればよいか分からない」
「会社の考えが従業員にうまく伝わらない」
そのようなときは、会社の状況や目的を伺いながら、どのような仕組みが合うのかを一緒に考えていきます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次