就業規則を見るとき、作るときのポイント|「権利と義務」の意識

就業規則を確認していると、「この条文はどういう意味なのだろう?」と分からなくなることがあります。
また、従業員から「こうしてほしい」と要望を受けたときに、「会社は応じなければならないのだろうか?」と判断に迷うこともあると思います。

このようなとき、就業規則の条文を会社と従業員のそれぞれにどのような権利と義務があるのかという視点から確認すると、判断しやすくなることがあります。
そして、この視点は就業規則を「読む」ときだけでなく、就業規則を「作る」ときにも重要です。

権利や義務が曖昧な条文は、会社と従業員の認識にズレを生み、そのズレが労務トラブルにつながることがあります。
本記事では、就業規則の条文を「権利」と「義務」という視点から読み解くコツとこれから就業規則を作成・改定する際の注意点を解説します。

目次

1.就業規則を読むときは「権利」と「義務」に注目する

会社と従業員の関係には、それぞれ権利と義務があります。
例えば、従業員には労働する義務がある一方で、その対価として賃金を受け取る権利があります。
会社には、従業員に対して賃金を支払う義務がある一方、一定の範囲で業務上の指示を行うことができる立場にあります。

このように考えると、一つのルールについても、

  • 誰に権利があるのか
  • 誰に義務があるのか
  • その権利や義務には、どのような条件が付いているのか
  • 会社の判断に委ねられている部分はどこなのか

という点を確認することができます。

例えば、「従業員が希望したから、会社は必ず認めなければならない」とは限りません。
反対に、「会社が決めたことだから、従業員は必ず従わなければならない」とも限りません。

就業規則を読むときには、会社と従業員の双方の立場から、その条文が何を定めているのかを確認することが大切です。

2.権利と義務が曖昧な就業規則は、トラブルにつながりやすい

ここで、就業規則を「読む」だけでなく、「作る」という視点から考えてみます。
もちろん、法令に違反する内容を定めることはできません。
しかし、それだけでなく、会社と従業員のどちらにどのような権利や義務があるのかが分かるように定めることも重要です。

例えば、育児や介護を行う従業員への配慮について、「会社は、必要に応じて配慮する。」とだけ書かれていたとします。

この条文だけでは、「会社には必ず配慮する義務があるのか」「どのような場合に配慮するのか(時短勤務なのか、業務量の調整なのか)」「どの程度の配慮をするのか」が分かりません。

従業員は「申し出れば必ず希望どおりに配慮してもらえる」と考えている一方、会社は「業務状況を見て、できる範囲で判断するつもりだった」と考えているかもしれません。

このように条文から双方が異なる意味を受け取ってしまうと、後になって「言っていたことと違う」という問題が起こる可能性があります。

だからこそ、就業規則は、「何をしなければならないのか」「何をすることができるのか」「どのような場合に認められるのか」などをできるだけ明確にしておくことが大切です。

曖昧な条文は、会社にとっても従業員にとっても判断に迷う場面を増やしてしまいます。
そして、判断が分かれるところには、認識のズレや不公平感が生まれることがあります。

3.就業規則を作るときこそ、権利と義務を明確にする

では、就業規則を作成するときには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。

一つのポイントは、「この条文によって、会社と従業員のそれぞれに何が求められるのか」を明確にすることです。

例えば、次のような点を確認します。

①会社に義務があるのか
「会社は○○する」と定める場合、それが無条件の義務なのか、一定の条件を満たした場合に発生する義務なのかを明確にします。

②従業員に義務があるのか
「従業員は○○しなければならない」と定める場合、どのような場合にその義務が発生するのかを確認します。

③会社に裁量があるのか
「会社は○○することができる」と定める場合、義務ではなく、会社に一定の裁量を認める規定なのかを明確にします。

④権利を行使するための条件は何か
従業員が一定の制度を利用できる場合、その対象者や申請方法、利用できる条件などを明確にします。

このように、条文を作成するときに「会社には何が求められるのか」「従業員には何が求められるのか」「どのような条件で権利や義務が発生するのか」という視点を持つことが重要です。

就業規則は、単に法律上必要な項目を並べて作ればよいものではありません。
実際に会社と従業員がそのルールを使う場面まで考えて、双方の権利と義務が分かるようにしておくことが大切です。

4.「できる」「する」「しなければならない」の違いにも注意する

就業規則の条文では、似たような表現でも意味が異なることがあります。

表現意味合い
会社は○○する会社が行うことを定めた規定として読まれる可能性がある
会社は○○することができる会社にその対応を行う権限や裁量を認める趣旨になる
会社は○○しなければならない一定の条件のもとで会社が義務を負う規定となる

もちろん、実際の法的な意味は条文全体や関連する規定、法律などによって判断する必要がありますが、就業規則を作成するときには、「できる」のか、「する」のか、「しなければならない」のかを意識して言葉を選ぶことが重要です。

こうした一つひとつの表現の違いが、実際の運用における判断の違いにつながることがあるからです。

5.就業規則だけでなく、法律や労働契約も確認する

就業規則だけを見れば、すべての判断ができるわけではありません。

労働条件や会社と従業員の権利・義務については、労働基準法などの労働関係法令、労働契約、個別の合意など、さまざまなルールが関係します。

例えば労働契約法では、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分について無効となり、就業規則の基準が適用されるとされています(最低基準効)。また、就業規則が合理的な内容であり、従業員に周知されていた場合には、労働契約の内容になるとされています。

そのため、就業規則に「会社は○○する」と書かれているからといって、それだけで判断できるとは限りません。
また、就業規則に書かれていないからといって、会社に義務がないとも限りません。

就業規則を確認するときは、就業規則だけで結論を出さず、労働契約や関係する法律なども含めて確認することが重要です。

特に、従業員からの要望を断る場合や、会社として一定の対応を求める場合には、慎重に判断する必要があります。

6.権利と義務が明確な就業規則は、会社と従業員の認識をそろえる

就業規則は、会社が従業員に守ってもらうためだけのものではありません。
会社にも従業員にもそれぞれ権利と義務があります。

だからこそ、就業規則を読むときには、「このルールによって、会社には何が求められているのか」 「従業員には何が求められているのか」 「それぞれにどのような権利・義務があるのか」という視点を持つことが大切です。

そして、この視点は、就業規則を作成するときにも欠かせません。
権利や義務が曖昧なままでは、会社と従業員がそれぞれ違う解釈をしてしまう可能性があります。
その結果、「会社はこう考えていた」「従業員はこう理解していた」という認識のズレが生じ、トラブルにつながることもあります。

就業規則を作成するときには、法律上必要な事項を定めるだけでなく、会社と従業員の双方が、自分たちに何が求められているのかを理解できるルールにすることが重要です。
また、就業規則を作るときには、一つひとつの条文について「誰の権利なのか」「誰の義務なのか」「どのような条件があるのか」を確認し、実際の運用まで見据えて明確に定めることが大切です。

まとめ

  • 就業規則の条文は「誰に権利があり、誰に義務があるのか」という視点で読むと判断しやすい
  • 「する」「することができる」「しなければならない」は法的な意味合いが異なるため、作成時は言葉の選び方に注意する
  • 就業規則だけで判断せず、労働契約法などの関連法令や個別の労働契約も併せて確認する必要がある
  • 権利・義務が曖昧な条文は、会社と従業員の認識のズレを生み、労務トラブルの原因になりやすい

アンタングル社会保険労務士事務所は、「会社への不信感を生まない職場の土台をつくる」という想いをもとに、就業規則の作成・改定・運用支援、労務相談などを行っています。
就業規則は、法律に合わせるだけでなく、会社と従業員の双方に何が求められるのかを明確にし、実際の職場で運用できるルールにすることが大切です。

会社の実情を丁寧に伺い、その会社にとってどのようなルールや運用がよいのかを一緒に考えます。
就業規則について「この規定でよいのか分からない」「会社の実情に合っていない」と感じることがありましたら、お気軽にお問い合わせください。

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